海や川などで溺れる事故は跡を絶ちません。溺れている人の再現映像を解説しつつ、溺死を防ぐ救助法・溺れないための対策についてお話します。あなたとあなたの大切な人の命を守るためにぜひ頭に入れておいてください。
今回の研究テーマは「恐怖!なぜ子供は溺れるのか?」
5歳から14歳までの子供の不慮の事故で2番目に多い死因。それは「溺死」です。海や川、プールで親御さんが見ていても、多くの子供が溺れるのはなぜなのでしょう? 溺れている人の見分け方や、溺れないための方法を詳しく解説します。子供だけでなく大人の命も守るために、ぜひ最後までしっかりとご覧ください
毎年起こる海と川の水難事故
先週大変痛ましい水難事故がありました。千葉県の滝で溺れそうになった息子さんを助けようとして、40代のお父さんが亡くなりました。また熊本でも16歳の男子高校生が川で溺れて、翌日に遺体となって発見されました。沖縄県で今年2022年上半期に発生した水難事故は40件を超え、過去最高となりました。
海上保安庁も警察も消防も「子供から絶対に目を離すな」「海や川のレジャーでは安全対策を」と毎年呼びかけているのに、なぜ溺死する人が跡を絶たないのでしょうか?
再現映像・溺れている人のイメージ
なぜ親や周りの人が見ているのに子供が溺れてしまうのか、不思議に思ったことはありませんか? 実は本当に溺れている人は一般の想像と違っているからなんです。再現映像を見てみましょう。
一般的な「溺れている人のイメージ」はこんな感じです。バチャバチャと騒がしく水音をさせて「助けてー!」と叫んでいます。これなら周りにいる人も絶対に気づきます。
でも実際に溺れている人はこんな感じです。全然叫びません。あまり動きません。このように静かに浮いたり沈んだりを何度か繰り返しているうちに、力尽きて溺れます。
溺れている人の実際の姿を解説
もう一度スローで映像を見てみましょう。まずは一般的な溺れる人のイメージ。これは明らかに立ち泳ぎができる人の演技です。私は立ち泳ぎの「巻き足」という技で首を出して泳いでいます。だから肘から上を水面に出して、バシャバシャと水を叩くことができています。
そしてわざとバタ足に切り替えて、浮いたり沈んだりしつつもしっかり呼吸をしています。だから思いっきり息を吐いて「助けてー!」と叫んでいます。「息を吸えている」から「叫べる」んです。
次にこちら。溺れている人の動きを再現したものです。泳げない人は足をしっかり広げた立ち泳ぎができません。だからバタ足になってしまいます。でもよほど脚力がある人ならともかく、子供は特に筋肉量がありませんから、バタ足では浮力を得るほどの力強いキックができません。
また「スカーリング」と言って両手を広げつつ手で水をかくと、さらに身体を浮かせることができます。でも溺れている人は恐怖心で、手を水の上に上げる傾向があります。バンザイの姿勢です。すると体は水の抵抗が最小限になる直線に近い形になり、さらに水の中に沈み込みやすくなります。
そうなった時、人間は本能的に呼吸を最優先にします。息を吸おうとするんですね。ほんのちょっと水面に顔を出した瞬間、息を吸うだけで精一杯で「助けて!」と声を出せません。声を出す余裕がないんです。
そして水をガバガバと飲んでパニック状態になり、恐怖心で体が硬直します。筋肉も疲労して体力の限界がきます。やがて水に吸い込まれるようにブクブクと沈んでいきます。以上溺れている人の再現映像でした。
子供は4秒で溺れます!
これは大人が溺れている時の映像でしたが、小さいお子さんだともっと静かです。「溺死」という概念が分からない幼児だと、自分が溺れていることも理解できません。もがいたりもしません。とぷんと静かに沈んでいきます。これは「本能的溺水反応」といいます。
実際に溺れている人を見た人は世の中にほとんどいないと思います。だから映画とかドラマなど役者の大げさな表現を見て、間違った「溺れる人」のイメージが一般の人にはあるんですね。
ダイバーの間で知られていることですが、今日はこの動画で4という数字を頭に叩き込んでください。
病院に担ぎ込まれるレベルの溺れが40秒。
溺死するまたは助かっても重大な後遺症が残る時間が4分。
4秒 40秒 4分。「死(四)の数字」です。子供はたった4秒で溺れるんです。絶対に子供から目を離さないでください。
川は海よりも怖い
特に川、滝つぼ、池、湖など、真水での遊泳は注意が必要です。海水よりも身体が沈みやすいからです。また川は流れがあります。夏の水温も海水より低いです。浅い川でも簡単に足をすくわれて、転んだまま流されてしまいます。あちこち岩で打撲して大怪我を負います。
一般に川遊びは簡単だと思われていますが、実は海よりも川で泳ぐ方がずっと難しいです。警察庁によると、水辺で子供が死亡する事故の半数以上が川で起きています。海よりも多いんです。
もう一度言います。4秒、40秒、4分。あっという間に人は溺れます。お子さんから目を離してはいけません。
もしそんなにじっと子供を見ていられないと言うのなら、川遊び・海遊びの時にはライフジャケットをお子さんに着せてください。ライフジャケットさえ身に着けていれば、少なくとも水に沈むことはありません。生き延びる確率が一気に上がります。
溺れそうになった時の対処法
次に溺れそうになった時に「浮く」方法をお話します。人間の身体は浮くようにできています。水中に沈むほうが難しいんですね。ダイバーは「ダックダイブ」という潜り方を最初に習います。でもほとんどの人が最初は上手く潜れません。身体が浮き上がってしまうからです。

でも浮くようにできていうというのは、肺に空気が入っている場合です。息を吐ききってしまったら身体は沈んでいきます。呼吸ができるかどうかが大切です。
呼吸さえしていれば、たとえ身体が水面に対して垂直状態でも、顔だけ浮かせることができます。だからまずぐっと首を反らせて口を水面に出してください。
この時絶対に手を上げないでください。泳げない人は怖くて反射的に手を上げたくなりますが、手を上に上げると、頭が完全に水の下に沈んでしまいます。手を上げないようにして、空を見上げて、口から上を水面に出します。
そして呼吸ができるようになったら手をできるだけ大きく広げます。そのまま身体をぐっと反らせると足が水面に持ち上がります。体全体が水面に浮かびました。この時両足を広げると、さらに身体が安定します。
【2】首を反らせて息をする
【3】手を広げると同時に
【4】身体を反らせる
これで浮いたまま落ち着いて救助を待ちましょう。海やプールで練習してみてくださいね。「落ち着くこと」が大切ですよ。
溺れる人を発見したら?
では溺れている人を発見した時、一体どうしたらいいのでしょうか? まず絶対に飛び込まないでください。たとえ泳ぎに自信があっても、飛び込まずに助ける方法を取りましょう。
マーメイドスイムやフリーダイビングのライセンス講習では、レスキュー法を習います。海底に沈んだ人を海面まで引き上げて「曳航(えいこう)」と言って安全なところまで泳いで運ぶ技術を習得します。

でも実際のところはまず無理だろうなと思います。というのも溺れている人は極限状態・パニック状態なんです。助けに行ったとしても殴ったり、蹴ったり、引っ掻いたりします。または救助者に思いっきり全力でしがみついたりします。小学生の子供でもものすごい力です。そうすると全く泳げなくなって溺れてしまいます。
殴られても蹴られても力で抑え込んで、岸まで曳航していける人なんて、軍隊並みの特殊訓練を積まないと無理だと思うんですよね。
いっそのこと気を失ってくれてればいいんですが、ブラックアウトはたいてい数秒から数十秒で意識が戻ります。気づいた時にびっくりしてしまって、急に暴れ出すこともあります。溺れている人を泳いで助けるのは、素人には不可能だと思ってください。

溺れる人を救助するためにやること
じゃあどうするのかというと、まずは周りの人に助けを求めます。
「あなたは監視員を呼んできてください」
「あなたは携帯で通報してください」
「そちらの方はAEDを持ってきてください」
具体的に、相手の目を見てしっかりと、大きな声で言います。
「誰か助けて!」だと周りの人は他の誰か別の人がやるだろうと思ってしまいます。だから「そこの眼鏡のあなた!」と具体的に助けを依頼します。
そして同時に浮き輪やビーチボール、ペットボトルやビニール袋など浮力があるものやロープを投げてください。長い棒状のものを溺れている人につかんでもらうなど何か物を使ってください。
まあ……でもねえ、飛び込んじゃいますよね。特に自分のお子さんが溺れていたら、反射的に泳げない人でも飛び込むと思います。でも共倒れになる可能性が高いです。まずは大声で助けを呼ぶ。そしてなるべく道具を使ってください。
目を開けられると生存確率が上がる!
その時に大切な条件があります。それは溺れている人が目を開けていることです。せっかく助けが来ても、浮き輪やロープを投げてもらっても、目をぎゅっとつむっていたらそれを掴むことができません。水中で目を開けられるかどうかで生存確率がかなり違ってきます。
昔の学校のプールの授業はゴーグルを使わずに、裸眼で泳いでました。だからプールのクラスの後に蛇口が上向きになった水道で目を洗ったりしましたでしょう? 先生が碁石やビー玉をプールに投げ込んで、水中に潜って取るゲームをしたりね。
でも今の学校はゴーグルを使うことが多いです。だから水の中で目を開けられない子供が以前よりも増えています。目をぎゅっとつむったままだと、助かる命も助からないかもしれません。
水の中で目を開ける訓練は子供も大人もやっておいた方がいいんですね。そのトレーニング法はこちらで詳しく解説していますので、ぜひ親御さんもいっしょにやってみてくださいね。


私の溺れ体験
実は私は今まで2回溺れたことがあります。1回目は17歳の時にアメリカのタホ湖というカリフォルニアの大きな湖で泳いでいた時に、低体温症で溺れかけました。湖の中で急激に水温が低くなる水深これを「サーモクライン」と言うんですが、サーモクラインを知らずに超えてしまって、急激な低体温症になって身体が全く動かなくなりました。

そして2018年に、フリーダイビングとマーメイドスイムでツアーに参加して海に潜っていた時に、海の有毒生物──クラゲなのか毒性の強いサンゴなのか結局正体は分かりませんでしたが、急激なアレルギー症状を発症して溺れかけました。
その時はすぐに救助されましたが、結局病院で一晩すごして、その後ずっとホテルで寝たきりでした。帰宅後も皮膚の炎症が治まらなくて、しばらく幻覚症状まで出たりして、半年以上後遺症に苦しみました。
自信があっても過信は禁物!
どんなに水泳技術に自信があっても、どんな人にも事故は起こるんです。絶対に慢心してはいけません。
マーメイドスイムやフリーダイビングは、何度も何度も繰り返して言っていますが、エクストリームスポーツです。死ぬかもしれないスポーツなんです。幸運にも私は今生きていますが、自然相手の時には絶対に油断しないようになりました。「自然は怖い。それでも海や川が好きだ」と言えるようになって、初めてスタートラインなのかもしれません。
だからどうぞあなたも、あなたの大切な人の命も守るために、今日の動画の内容を覚えていてくださいね。
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