息止めの動画は人気がありますが、ブラックアウトのことはご存知でしょうか? ブラックアウトを知らずに水中で息を止めるのは非常に危険です。ブラックアウトとは何か、ブラックアウトの基礎知識を分かりやすく解説します。
研究テーマ「ブラックアウト」
今回の研究テーマは「ブラックアウト」についてです。ブラックアウトって聞いたことがありますか? 知らない? ブラックアウトを知らずに水に潜ることは非常にまずいです。命に関わります。今回は素潜り・マーメイドスイムでぜひ知っておきたい「ブラックアウト」についてお話します。
YouTubeで人気の息止め動画だけど……
このチャンネルでは「息止め」をテーマにした動画が人気なんですね。水中息止めチャレンジをしているYouTuberさんも多いですし、素潜りやマーメイドスイムをしている方にとっては1秒でも長く潜っていたいと思いますし、実際人魚の皆さんも息止めの練習を普段しています。
でも「ブラックアウト」という現象について全く無知なまま息止めをしたり、水中に潜るのははっきり行って自殺行為です! 下手したら死にます! 命に関わる重大なことです。
この記事を見れば息止めにおいてはやってはいけないこと、ブラックアウトという現象がいかに恐ろしいか、そしてあなたの命を守るためにどうしたらいいかが分かります。あなたご自身だけじゃありません。大事なご家族、お友達を守るためにもぜひ頭に入れておいてくださいね。
息を吐ききって潜る!?
ちょっと前にこんな記事を書きました。水中に沈むための方法です。その技術の中の一つに「息を吐ききる」というやり方があります。

プロのマーメイドの方は、ショーなどで浅い水深の水槽に沈む必要があります。その時には息をふーっと吐ききることで、身体を水中に沈ませることができます。
人間の身体は肺の中にたっぷり空気があると沈まないようにできています。泳げない方からすると意外かもしれませんが、人間が水に沈むのはかなり難しいことなんですね。だから人魚の皆さんは練習会などで息を吐いて沈むトレーニングをするんです。
リクエストありがとうございました
こんなリクエストをいただきました。永田恭平さんです。ありがとうございます。
チャンネル登録しました! 息止め5分はすごいですね(^o^) 息を吐いてからどれだけ潜れるのか検証して欲しいです。
息を吐いてからどれだけの時間潜れるかという検証。マーメイドにとってはとても大事なことです。というわけで実際にやってみました。
息を吐ききって潜る実験
私は下にネオプレン素材のパンツを履いていますので、浮力が増していて非常に水に沈みにくくなっております。だから息を吐いただけでは沈めません。そこではしごを使って水中に沈んでおります。
はいスタート!
……30秒ですね。実はこれは私の限界の長さではなくて、30秒というのは私が自分で決めている時間なんです。フリーダイビングの息止め競技スタティックアプネアで。5分息を止めていられる私ですが、息を吐ききった状態では30秒ほどで浮上しようと決めています。
というのもこの息を吐ききって潜るという行為は非常に危険で、訓練なしに絶対にやってはいけないものなんです。これでタイトル回収の「ブラックアウト」のお話になります。
ブラックアウトとは?
ブラックアウトというのはフリーダイビングや素潜りマーメイドスイムの世界では「一時的に意識を失うこと」を意味します。呼吸を我慢しすぎることで酸欠状態になって、脳の酸素濃度が低くなり、まるでパソコンやスマホが急に落ちるように意識が飛んでしまうんです。
この時間はほんの数秒であったり、または数十秒気絶していることもあります。このブラックアウトはなぜ起こるのかご説明します。
ブラックアウトのメカニズム
脳の中でも心臓を動かしたり呼吸するための「脳幹」という部分があります。脳幹の機能が落ちると死んでしまいますよね。だから脳幹を第一優先で動かすために、そちらに酸素を送ります。
そして脳の中でも意識や記憶はこの緊急事態ですから後回しです。そして意識や記憶を司る大脳の部分に酸素を回さなくなるから、ブラックアウトが起こるんですね。
陸上で意識を失っても周りに空気はいっぱいあります。だから窒息死することはありません。でも水中で意識を失ったらどうでしょう? そこが水深5m、10mの海の底なら? 周りに誰もいなかったらどうなります? もう言わなくても分かりますよね。
苦しくなったらやめられる?
「いやいや、大丈夫、大丈夫!」「息止めが苦しくなったらちゃんとやめるから」と気楽に考えている方もいらっしゃいます。でも違うんですよ。ブラックアウトって気がついたらなってるものなんです。
私は幸いブラックアウトの経験がないのですが、以前フリーダイバーの方に聞いた話では、全く予想できなかったって言うんです。
普通はこう思います。我慢して、我慢して、苦しくなって、あーもう限界!ってなってからブラックアウトすると思うじゃないですか。でもねそうじゃないんです。
まだいける、全然余裕じゃん、いける、いける──と思ってたら急に場面が飛んで、プールの上に引き上げられてるのに気づいて「ここどこ? 今自分何してるの?」っていう状態だったそうです。
それこそ電気がパチっと停電になるような感じみたいです。自分では分からないことが多いんです。だから自分の限界一歩手前でやめる勇気が必要なんですね。
フリーダイビングの試合では?
フリーダイビングのスタティックアプネアの試合では、すぐ隣に様子を見てくれている相棒(バディ)がいて、救命資格を持ったダイバーさんも待機していて、そして救命措置ができるドクターもスタンバイしている──という万全の状態で行っています。
息止めのプロフェッショナルであるフリーダイビングの選手でさえ、ガッチガチに安全対策した上で息止めを行うんです。息を吐ききって水に潜る行為が、いかに危ないものかが分かるかと思います。
ちなみに私のタイムを見てくださったシェリーナ先生はたくさんの資格をお持ちです。私自身もPADIのフリーダイバー、スキンダイバーの資格を持っております。だからこのような実験をしても大丈夫なんですね。
マーメイドにとっては必須科目
とはいえマーメイドスイムをする方は、息を吐いて水に潜る技術は必須科目となっています。だからブラックアウトについて正しい知識を持って、自分がどのくらいの時間息を止めていられるのか、息を吐いて潜っていられる時間はどのくらいか、練習を重ねる上で把握してそれを守らないといけません。
私の場合は、息を吐いた状態では30秒。それ以上は我慢しない。これが私のルールです。今回はちょっとマジメなお話になってしまいましたねでもね。とっても大切なことです。息止め動画ではいつも、「ハイパーベンチレーションはやらないで」とか、「絶対に一人で息止めしないで」ってくどいほど言ってますよね。
リスクについても知っておきましょう
水の中は楽しいです。でも楽しいだけでなくリスクもあるんだと、あなたに知っておいてほしいんです。あなた一人だけの問題じゃないです。万が一のことが起こったら、あなたの大切なお友達、ご家族の一生のトラウマになってしまうかもしれません。あなたご自身と周りの人のためにもブラックアウトのことをぜひ忘れないでいてくださいね
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ロケ地
ダイビングスクール&ショップ evis(愛知県名古屋市)