生理食塩水の中なら目が乾かないから、ずっと目を開いたままにできるのでしょうか? 0.9%濃度の食塩水の中でどのくらいまばたきしないでいられるのか実験してみました。その結果は……!? 予想外に辛い実験でした。
研究テーマ「生理食塩水の中ではまばたきは必要ないのか?」
今回の研究テーマは「生理食塩水の中ではまばたきは必要ないのか?」です。生理食塩水は、私達人間の体内の体液とほぼ同じ濃度の食塩水です。まばたきは涙で角膜を潤して目を清浄にして、保護する役割があります。ということは生理食塩水の中ではまばたきは必要ないのでしょうか? 生理食塩水に顔をつけてどのくらい瞬きせずにいられるのか実験してみたいと思います。
研究員の皆様からいただいたリクエスト
当研究所の研究員の方々からこんなご質問やリクエストを頂きました。まずTMさん。
素朴な疑問ですが生理食塩水なら刺激がなく目も乾かないから息が続く限りずっと開けていられるのでしょうか?
そしてぶるびーさん。
マーメイドのみなさんで水中まばたき我慢チャレンジしてほしいです。
これすごく面白い視点です。涙の役割は角膜が乾かないように目を水分で保護したり、汚れを流して清浄に保つことですね。だから私達はまばたきをするわけですが、目全体が生理食塩水に触れていたらまばたきは必要ないのでしょうか? みなさんはどう思われますか? 他の人魚の皆さんに実験をお願いするのはちょっと申し訳ないので、私が被験者となって実験してみたいと思います。
生理食塩水を作ろう!
実験開始! これはアクアリウム用のガラスの水槽です。大きさは20×20×20センチ。これに水を入れます。水は水道水を熱湯にして冷ましたものを使いました。水の容量はこの水槽の縦×横×高さで求められます。20×20×18センチなので、今この水槽には7.2リットル水が入っていることになります。
この水道水を生理食塩水と同じ0.9%の塩分濃度にするには、何グラムの塩を溶かしたらいいでしょうか? なんか小学校の算数の時間みたいですね。計算式は
7.2リットルは7200gだから、7200×0.9÷100=64.8。ということで約65gの塩を入れると、この水槽の水は0.9%濃度の食塩水になります。そこで65gの塩を入れてよくかき混ぜました。
水に顔をつけてまばたき我慢開始!
ではこの水に顔をつけてみましょう。息止めの場合は時間が限られてしまいますので、シュノーケルを使って息を吸える状態にして、まばたきのみに集中できるようにします。水が冷たくて目を閉じかけますが、頑張って目を見開きます。生理食塩水なので目は痛くないです。目が乾く感じもしません。
でもまばたきをしないということが、これほど難しいとは思いませんでした。というのもまばたきは無意識の動作なので、ちょっとでも別のことを考えたり、または瞑想状態で何も考えないと、うっかり目を閉じてしまうんです。目が乾くことも痛いこともないのですが、ほんの1秒でもぼんやりすると目を閉じてしまうんですよ。
まばたきのことだけを考えるのが辛い!
必死で閉じないように集中します。頭の中は「まばたきするな!」でいっぱいです。一瞬でも別のことを考えるとまばたきしてしまうので、ひたすら「まばたきするな!」だけを考え続けます。まぶたがピクッと動いて目が閉じようとした時に、慌てて目を見開く感じです。常に完全に目が閉じないように気をつけていました。
この「一つのことだけを考え続ける」というのがものすごく難しいことなんです。私は瞑想を日課としていますので、心を空っぽにしたままキープするのは得意なんですが、それだと無意識にまばたきしてしまいます。だから逆にまばたきのことだけを考え続けなければならないのですが、人間の脳はそういうふうにはできていません。ぜひあなたもやってみてください。まばたき まばたき──と、まばたきのことだけを長時間考え続けることはできるでしょうか?
まばたきしないことに集中し続ける!
いったい何のためにこの苦行をしているのか、よくわからなくなってきております。時々瞬きしているように見えますが、閉じかけた瞬間に目を見開いております。完全に閉じてはおりません。相変わらず痛みは感じません。瞳が水に接しているので乾いた感じもしません。まばたきできなくて肉体的に辛いということはないのですが、とにかく全集中してまばたきのことだけを考え続けるという精神的な辛さがあります。
これはどうも「瞬きできない辛さに耐える」というよりは「いかに集中できるか」にかかっている気がします。心の中で「まばたき まばたき まばたき──」とお経のように唱え続けられるかどうか気力と集中力の問題であるのではないでしょうか。というわけでここらでやめましょう。実験終了です。
まばたき実験の結果
結果は
でした。いやはや辛かった。
目を水中で開け続けるのは健康に良くない
だた実はこの実験は目の健康にはあまりよくありません。そもそも涙の成分って塩分だけじゃないですよね。角膜に潤いを与える成分や、雑菌から目を守る免疫機能を持つ成分、ビタミンだったり、酸素だったり──他にもいろんな成分が入っているはずです。単に塩を入れただけの水道水が、涙と全く同じ成分になるわけじゃないです。
確かに生理食塩水は目に刺激が少ないですが、だからといって涙の代わりにはなりません。まばたきはそういった様々な成分が含まれた「特別な液体」である涙を目全体に行き渡らせるという役割があります。
眼球を洗うことについての注意
それと眼球を洗浄液で洗うことについてもお話します。よく花粉の季節になると、テレビCMで洗浄カップを目にあてて、パチパチして、目の汚れが綺麗になりました──みたいなのやってますよね。あの洗浄液も、生理食塩水と同じ0.9%の濃度にしてあるから刺激は少ないんです。
一見目を洗うのは良いことのように思えます。でも実は目には良くないんです。ドラッグストアで販売する以上、防腐剤や添加物が必ず入っていますし、スーッとするような清涼成分も含まれていたりします。それらはときには角膜にダメージを与えることもあります。
今回は水槽も水も滅菌しましたが、それでも顔の皮膚やまつげ眉毛についた雑菌は、ゼロにはできませんから、水の中には雑菌も溶け込んでいます。時間が立つほど雑菌は繁殖していきます。雑菌だらけの水に目をつけるのが目の健康に良いわけがありません。だから目医者さんとか目の専門家は、水道水や洗浄液で目を洗ったり、プールや海で裸眼で泳ぐことは推奨していません。
もちろん目にゴミやホコリが入った時には緊急事態ですから、目を水道水で洗ったり洗浄カップを使うこともありますが、そういう場合を除いて極力目は洗わないほうがいいですね。
水中で目を開ける訓練は大切ですが…
私のチャンネルの動画でも、水中で目を開けることの必要性は何度もお話しています。溺れそうになった時に、いざとなったら目を開けられるようにトレーニングするのは大切です。命に関わることです。水中で目をぎゅっとつむったままでは、生存確率が下がってしまいます。
でもできるだけ目を痛めないように、マーメイドスイム、素潜り、スキンダイビング、フリーダイビングではマスクやゴーグルを使うようにお話しています。だから今回はこんなふうに実験してみましたが、目を洗ったり裸眼で泳いだりは、できるだけ避けていただくほうがいいかなと思います。
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ロケ地
自宅(蒸気邸)